「旅とともに生きる」
自分で旅をするようになって気づいたのは
旅人をより楽しませるための工夫が、それぞれの国にあるということ。
“日本に訪れた人にも同じように楽しんでもらいたい”
その想いが彼女を突き動かしていく。
田中 時恵
地域文化学科 中・北欧地域文化専攻 スウェーデン語・2005-2011在学。通訳案内士。
大阪生まれ大阪育ち。住吉高校国際教養科卒業後、大阪外国語大学に入学。スウェーデン留学中にバックパックに目覚め、旅先でヨーロッパ人の仕事観や休みの使い方に衝撃を受ける。大学卒業後は中小企業の海外事業部に勤務。2013年に退職し、インバウンド関連の仕事をスタートした。現在は、外国人観光客向けのツアーガイドやオリジナルのアクティビティの企画などを行う。
インタビュアー:菊池藍(夜/中国語 2011年卒)
多言語に溺れた大学時代
- 時恵さんは、なぜスウェーデン語にされたんですか?
- えーっと、諸説いろいろあるんですけども(笑)。
- いろいろ聞かせてください(笑)。
- まず、英語は高校までにやったからもういいかなと思って、最初からやる気がなかったです。それで、英語に近いヨーロッパ系の言語が比較言語的に面白そうやしいいかなって思って。でもドイツ語とかはメジャーすぎるから面白くないな、教材とかもいっぱいあるし、頑張ったら自分で勉強できるかなと思ったんです。で、スウェーデン、なんかいいなあ、社会保障とか整ってるイメージあるしいいなあ、みたいな(笑)。極めつけは私が高校生のとき、ちょうど日韓ワールドカップがやってて、“スウェーデン人の選手めっちゃかっこいいやん!”って。
- (笑)わかります!私も高校時代に初めてスウェーデン人男性を生で見て、“こんなカッコいい人が地球上にいるんや”と思いました。
- そうー!超かっこいい!それでスウェーデンに行こうと思って。まぁ、そんな感じです(笑)。
- では、実際に外大に入ってみたらば、どうでしたか?
- 私、意外と超まじめに言語の勉強をひたすらやってたんですよ。全部でたぶん10言語くらいやりました。
- すごい!何語ですか!
- まず専攻語のスウェーデン語、副専攻語の英語。で、スウェーデン語に付随してノルウェー語、デンマーク語、古アイスランド語やるでしょ?で、アイヌ語でしょ。
- アイヌ語!集中講義のアイヌ語ですか?
- そう集中講義の!先生が北海道からイクラを持ってきてくれるから、それをもらって食堂で白ご飯だけ買って…
- え、イクラ丼!?めっちゃいいですね、仲良し!
- 燻製も作った。あと、クメール語でしょ。
- クメールってカンボジアですよね?
- そうそう、語学の授業ではあれが一番ハードでした。
- なんでですか?
- なぜならば、集中講義の6日間でクメール語の文法を全部マスターするからです。2、30ページある文法の教科書を全部やって、それが全部テストに出てくるっていう。
- …単位は取れたんですか。
- 大丈夫、ほぼ全問正解でした!
- すごい!
- もうだいぶ忘れましたけどね(笑)。それからハウサ語でしょ。
- ハウサ語ってどこですか?
- ナイジェリア。で、あとトクピシン語。
- とくぴしんご?!
- パプアニューギニア。
- !それって何先生ですか?
- 千田先生。
- 千田先生!講義受けてました!音韻学やったかな?めちゃくちゃ面白かったです。
- 先生のキャラがめっちゃ面白くて、ファンみたいになってました。
- いやー、マニアック!
- だいぶマニアックになりましたね。あと1つは、自分で勝手にスペイン語を勉強しました。
- なるほど、すごい。語学オタクですね。
- 外大の授業、超好きでした。
- 留学に行ったのはいつですか?
- 2008年の1月から6月までです。部活(ラクロス部)をちゃんと引退してから留学しようと思ってたんで、3年の11月まで部活をやりました。当時は5年で卒業するつもりで計画してましたね。スウェーデン政府からもらえる奨学金での留学は学校が選べなかったので、そこにはあまりこだわらず、スウェーデンに半年行って、ついでにヨーロッパ旅行しようかな、みたいな感じでした。
- スウェーデン時代はどんな生活をされてたんですか。
- 森のなかにいました。
- ?!
- 私が通ったのは日本語でいう国民高等学校っていうところで、高校と大学の間みたいな、大学行く前にもうちょっと勉強したいっていう人が通う学校でした。スウェーデン政府の奨学金をもらう子は学校選べなかったんで、国民高等学校の普通科に放り込まれて、他のスウェーデン人の生徒と同じ授業を受けてました。
- 留学生クラスとかじゃないんですね。
- 留学生はほとんどいなかったですね。金曜日の授業が終わったら、学校がある森を抜け出してバス乗り継いで街に出て、土日は街で過ごしてました。友達が住んでる街に遊びに行ったり、ちょっとノルウェーまで行ってみようとか。
- うわぁ、いいですね。
- あとは、当時の彼氏がスコットランド人やったから、ヨーロッパ中を一緒に旅したりもしました。
- わぁ、なんてこった!
- なんてこったです(笑)。数少ない留学生(ベラルーシとバスクの子)とも仲良くなって、一緒に出掛けたり。みんなすごいアクティブでやたらと旅行好きやったから、そこからバックパックに目覚めました。
moreスコットランド人の彼
ハワイのホノルルマラソンを走りに行ったときに、泊まってたホステルで出逢ったんです。彼とギリシャに行ったとき、私はスーツケースを持って行ったんですけど、ギリシャの街が石畳の坂道で…スーツケースの使えなさを痛感しました。彼は旅慣れし過ぎてたんで、小さめのバックパックにシャツとパンツだけ入れてきて「お前なんでそんなでかいの持ってきたん」って(笑)。 - なるほど。じゃあ時恵さんの場合、スウェ語を極めるというよりは、スウェーデン留学を皮切りに、いろんな国へ行くことになったんですね。
- そうそう、それまでは自分のなかにバックパックって概念はなかったんです。ただ、旅をするようになってもバックパックは持ってへんくて、安く買ったボストンバッグを女子高生風に背負って、10ヶ国くらいプラプラしてました。
- そこからはどんな旅をしたんですか。
- スウェーデン行ったついでに西欧・北欧あたりぐるぐる廻って、次の年は友達が東欧にいたから何ヶ国か行って、その次の年は2ヶ月半休みがあったから、どうしよかな、南米はどうかなって思ったけど、南米って広いじゃないですか。2ヶ月半で廻られへんなと思って。ヨーロッパの感覚に毒されたんですよね。ヨーロッパ人のあの休みの使い方って日本人と感覚が違いすぎるじゃないですか。だいたい休暇は一気に4週間くらいとって、1ヶ国に長くて1ヶ月、最低でも1週間は滞在するっていう。でもだんだん私も、やっぱり休みはそれくらいいるよなあ、1ヶ国それくらい滞在しないと、なんも見られへんよなあって思うようになって。その数年前の自分やったら、2ヶ月半あれば南米いっぱい廻れる!とか思ってたやろうけど、いややっぱり無理!って。
- 2ヶ月半の休みとは、いつ頃のでしょう…?
- 留学から帰ってきた次の年(2009年)、就活して内定もらったんですけどなんとなく気に入らんくて。内定を蹴ってもう1年就活するっていう口実でその次の年も在学することにしたんです。それで2010年は4月早々に内定をもらったあと、5~9月にがっつりバイトをして、10月に卒論を出しました。そのあとの2ヶ月半ですね。
- 卒論10月出しですか!?
- そうそう。本来卒業する予定やった年(2010年)に、先生に「就活もう一年したいから、卒論出しません。ほかの単位はもう全部取ります」って言ったんです。だから最後の年は卒論だけ、しかも前の年にほぼ書き終えてたから、10月に出して「行ってきます!」って。
- すごいですね。そして南米には行かず、どうされたんですか。
- ちょっと目線を地図上の南米から北に動かしたら、ちっちゃい知らん国がいくつかあったんです。中米8ヶ国、半分くらい知らん国やんって思って、行くことにしました。
- 中米!どこどこ行ったんですか?
-
- あぁ、マニアック…
- コスタリカ、パナマ。いやぁ楽しかった!あの旅がいまだに一番楽しかった気がします。
- ひとりで廻ったんですか?
- ひとり。たまに友達とメキシコで合流したり。だって2ヶ月半も付き合ってくれる人いないじゃないですか(笑)。
- スコットランド人の彼は?
- 別れちゃった!お互い自由すぎて!
- 残念…!中米、一番良かったのはどこですか。
- なんだかんだで好きなのはメキシコ。でもニカラグアも良かった。
- どんなところが?
-
別に何もない感じが(笑)。観光とか、あるようなないような…ぐらいやけど、ホステルの雰囲気が良くて。私、ニカラグアのストラクチャーがすごい好きなんです。一階建てで、こうね、回廊みたいになってるんですよ。真ん中に庭があって、部屋が周りにあるんですけどね、回廊のところにハンモックがついてて。そういう雰囲気がすごい好きで。ほんま何もなかったんやけどね。
more中米の恋
ニカラグアはほんまに何もなかったんです、恋愛くらいしか(笑)。中米の恋の相手は、オーストラリア人でしたね。中南米の現地の人はノリが軽すぎて…あれ、道端で声かけたって絶対響かんよね。だいたい恋に落ちるのはいつも同じ宿に泊まっている子とか、友達感覚で喋ってるとだんだん仲良くなるパターン。今まで旅先の恋はうーん、5回くらいあったかなぁ(笑)。 - いいですね。そして2ヶ月半の旅が終わって、12月中旬に帰国されたんですよね。
- 1月に卒論発表があったからね。2月の休みはバレンタインの短期バイトをしてお金貯めて、それで卒業式まで1ヶ月ほど東南アジアをプラプラしました。
- うわぁ、また旅に出たんですね!東南アジアはどこへ?
- タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムです。よかったですよ〜。
- 新卒で就職した会社は、どんなところだったんですか。
- 大阪の某重工業系中小企業の海外営業部に就職しました。最初は貿易事務みたいなことをしてましたね。輸出入の事務書類作ったり。タイにも2回くらい出張に行かせてもらったし、これから海外の仕事増やして、女性も活躍できるようにしていきたいって言ってたから、面白そうかなと思って入ってみたんですけど。
- けど…?
- だめでしたね。
- だめとは…
- 社員さんはすごい良い人たちばっかりやったんですけど、完全にそれまで男ばっかりの社会やったからか、皆さん女子の扱いに全然慣れてなくて…というか気を遣われすぎて。「この仕事、女子にやらせていいの?」とか「お前女の子やからこの仕事はせんでいい」みたいなことがすごい多くて、全然仕事が回ってこないんですよ。
- そういうこともあるんですね…。
- 一番ショック、というか衝撃やったんが、海外出張のときに上司に「俺の今回の役目はお前を無事に日本に帰すことやから」って言われて。“私何のためにここに来たん”って思いました。私、ここの会社いる意味ないなあと。
- そうですよね、もっとバリバリやりたいですよね!
- そうそう。しかもちょうど2年目くらいのときに、国内の重工業系の需要がめちゃくちゃ増えて―その前の年の津波の影響もあって―海外の需要がほぼなくなってしまったんです。最後の1年はほぼ社内ニートでした。
- 海外営業部ですもんね。社内ニート…(笑)
- 仕事ないんですもん!(笑)それで2013年の秋に仕事辞めちゃった。
- お疲れ様でした。そして、どうされたんですか。
- ちょっといっぺん海外に行こうと。
- さすが!貯めたお金で、ですね!
- うん、3週間ぐらいしかなかったんですけど、アメリカとメキシコに行きました。でも、しばらくどうやって生きてたかな、あんまり覚えてない(笑)。
- そのときは、何かやってみたいことがあったんですか。
- 卒業前からインバウンド系の仕事がしたいっていうのは思ってました。ゲストハウスとかも作りたかったのね。海外あちこち行って、とくに中南米ではずっとホステルとかゲストハウスに泊まってたから、そういうところで人に会うのも楽しかったし、そういう場所を日本でも作れたらなーと思ってて。
- なるほど。
- 例えばカウチサーフィンっていう Airbnbの前身みたいなものがありますよね。タダで現地の人の家に泊めてもらえるんです。タダ泊まりすることが目的じゃなくて、文化交流がメインなんですけどね。それをヨーロッパに行ったときに、スウェーデン留学で仲良くなったベラルーシの子とかバスクの子とかに教えてもらって。
- あの1日ホームステイみたいなやつですよね。
- うん、ほんまにそんな感じ。いろんな人のところに泊めてもらえて楽しかった。実は私、在学中に5LDKのおばあちゃんの家に住んでたんです。おばあちゃんはいなかったから部屋を持て余してたんですよ。
- 広すぎません…?
- そう(笑)、日本家屋やし海外からの旅行客にとっては良いから、在学中にカウチサーフィンでいろんな人のホストしてたんです。そういうときに、自分が外国人に対して全然日本のことを喋られへんってことに気付いて。それから日本のこととか大阪のこととか調べて意識して喋るようになったんです。でも、もっと外国人が日本で楽しく過ごせるような仕組みとか、海外で私が体験した現地ツアーみたいなものが作れたらいいのになあ、というのはぽわんと思ってました。
moreおばあちゃん家
吹田の古い一軒家やったんですけど、無駄にでかい5LDKでした。実家に住んでたときは7人家族で4部屋を使っていたので、ひとりで5部屋もらったときの持て余す感じ半端なかったです。部活とか体育会の飲み会で使ったり、卒業前夜はみんなで4時くらいまで語り明かしたり、みんなの拠点にもなってましたね。 - なるほど、在学中からそういった、旅人をもてなすことをされていたんですね。
- うん。でも逆にいうと、私がヨーロッパとかほかの国で、いろいろおもてなしをしてもらったから、日本に来る人たちにも同じようにできるようになったらいいなあと思ったのが始まりです。
- 時恵さんが海外で知った、日本にはない現地ツアーってどんなものがありますか?
- 私は参加してないんですけど、活火山ウォーキングツアーとか面白そうでした。
- マニアック…!
- ボルケーノウォーキングって言って、マシュマロをな、活火山のとこで焼くねん(笑)。あとは活火山の横にできた砂山みたいなところでサンドボーディングするとかもありました。
- わぁ、めっちゃ良い!それはどこの国ですか。
- ニカラグアとグアテマラです。サンドボーディングはタイムをみんなで競って、今週のトップは~とかをホステルで発表してて、このアイデアめっちゃおもろい!と思いました。
- おもしろいですね!
- あとはマーケットツアーとか料理教室みたいなのも面白かったです。観光って、ある程度までは自分でもできるけど、やっぱり公共交通機関がないところは行きにくかったり、現地の人でないと入りにくいところもいっぱいあって。現地でそういうおもしろいこと体験するってなったときに、それを取り持つ人が必要なんですよね。