司馬遼太郎記念学術講演会の開催

平成22年度 大阪大学司馬遼太郎記念学術講演会

「近代日本の原風景」

主催: 大阪大学
共催:産経新聞社 / 関西2100委員会
後援:司馬遼太郎記念財団
協賛:咲耶会(大阪外国語大学・大阪大学外国語学部同窓会)
日時: 6月19日(土) 午後1時30分~4時30分
会場: サンケイホールブリーゼ(大阪市北区梅田2-4-9)

【 第1部 】
講演  「世界史のなかの『坂の上の雲』」       東京大学教授 山内 昌之
講演  「現代に生きる子規―写生・表現・広告」   コラミスト 天野 祐吉

【 第2部 】
対談  「近代日本の原風景」       山内 昌之、天野 祐吉

【講演会の概要】
今回は「近代日本の原風景」というテーマのもと、東京大学教授の山内昌之氏と、コラミストの天野祐吉氏による講演および対談が行なわれた。平成21年からNHKドラマが開始されたこともあり、話題の中心は小説『坂の上の雲』であった。
講演では、まず山内氏が「世界史のなかの『坂の上の雲』」と題し、歴史学の見地から、主に明治人の武士的リアリズムの精神について語った。日露戦争とは、武士のリアリズム、合理主義、日本風に味付けされたピューリタニズムとでも言うべきメンタリティーが最もよく発揮された機会であった。問題は、戦争の結果そのものは綱渡りの辛勝であったという事実が、その後、深く分析されないまま見過ごされたことにある。

続いて壇上に立った天野氏は、「現代に生きる子規―写生・表現・広告」と題し、主に子規と秋山真之の書いた文章に着目するユーモアたっぷりの講演を披露した。天野氏は、写生という、子規独自の文体に注目する。子規は、あるがままに写すという、当時の日本にあっては革新的な俳句を創造した。私情を排し、客観的に一瞬の風景を切り取って、解釈は読み手に任せる。実は、これは現代の広告にも脈々と受け継がれている手法である。

天野氏は子規の次の俳句を引用した。「君を送りて 思うことあり 蚊帳に泣く」 これは戦場に向かう真之を送り出した後に子規が詠んだ句とされている。その真之も、もともと文学志望だったこともあり、実に簡潔かつ深みのある文章を残している。日本海海戦出撃時の「本日天気晴朗なれども浪高し」である。短い中に実に豊かな情報を封じ込めるという点では、真之もまた、リアリズムの文体を得意としていたのではないだろうか。
そして、言うまでもなく、そのようなリアリズムの文学精神は司馬という小説家にも受け継がれているのである。
二人の講演終了後、NHKドラマ『坂の上の雲』で秋山真之役を演じている俳優の本木雅弘氏によるビデオレターが上映された。
その後、二人の演者による対談が行なわれ、文と武がほどよく調和していた明治期の話題で盛り上がった。
講演会は、池田 修咲耶会会長の挨拶とともに、盛況のうちに閉会した。今回は客席に若い聴衆も目立った。外大時代から続く本講演会を楽しみに待つ市民の層が拡大しているのは、誠に喜ばしいことである。

(『咲耶』21号 松本健二氏のレポートを要約)