第9回「咲耶出版大賞」ご報告

第9回「咲耶出版大賞」の表彰

 平成28年度にスタートした「咲耶出版大賞」の第9回受賞者は、同賞選考委員会の厳正な審査により、下記のとおり決定しました。賞状とトロフィー、副賞として、賞金が贈呈されました。おめでとうございます!

<大 賞>
作品名:『フランスのウォーカブルシティ:歩きたくなる都市のデザイン』(学芸出版社)
執筆者:ヴァンソン藤井由実氏(大F26、Fujii Intercultural社代表フランス都市政策研究者)

【選考委員】 (敬称略)

 ・顧 問 
  赤木 攻(大TV15 元大阪外国語大学学長/大阪外国語大学名誉教授)

 ・委員長
  石野伸子(大D22)

 ・委 員
  青野正明(大K30 桃山学院大学教授)
  脇坂洋子(大D 27 院前中北欧5 院後言語9)
  藤原克美(大R38 大阪大学大学院人文学研究科外国語学専攻教授)

 

【選考報告】

 

―会報『咲耶』35号掲載記事より―

選考委員 青野正明(大K30 桃山学院大学教授)

 2023年に刊行された出版物を対象とする「第9回咲耶出版大賞」の大賞に、ヴァンソン藤井由実氏(大F26)の『フランスのウォーカブルシティ:歩きたくなる都市のデザイン』(学芸出版社)が選ばれた。特別賞は該当なしである。とはいえ、選考対象の作品は、学術書、実用書、翻訳、自伝など多彩な8点であり、同窓会の層の厚さと同窓生のご活躍を目の当たりにした。個人的には、選考は知的刺激が得られて多くを学ぶ機会でもあった。

 大賞に選ばれたこの著書では、15分都市からスマートシティまで、パリなどフランスの8都市の事例が取り上げられ、ウォーカブルな都市づくりの実践が紹介されている。それは都市空間を再編する実践で、歩行者空間を創出し、自動車交通の抑制と自転車道・公共交通の整備をおこない、これにより道路空間の再配分をおこなう、といった内容である。そして、著者はその実践を紹介するに当たり、ウォーカブルシティの方法論とともに、政治的・社会的・財政的・歴史的な背景の説明も加えている。それは、フランス人がなぜそのような街づくりを考えたのかという問いに対して、著者がそれに答えようと努めた現れと受け止められる。

 書物としても、実践の紹介書でありながら、文献資料や統計、地図などにもとづく論拠が手堅いと思われる。また、フィールドワークを最大限に活かして、写真や図版・地図などを多用することで臨場感を生み出し、幅広い読者に向けて読みやすい工夫がなされている。カタカナ用語に立ち止まることもあるが、興味深く引き込まれるように読めて、総合的に上手に仕上げた著書といえるだろう。本書は咲耶会の皆さまに広くお薦めできる作品である。